名前よみ
きむら しょうしゅう
生没年
1881年-1954年(明治14年-昭和29年)
解説
2000年以降、「子ども読書年」、「子どもの読書活動推進法」の成立、「ブックスタート」の展開など、全国各地で子どもの読書に関していろいろな施策が講じられてきています。
岐阜県では明治時代にいち早く、子ども達のために多くの読み物を執筆し、また誰でも気軽に本に親しめるよう私設の図書館を開設した人がいました。それが木村小舟です。
小舟は、明治14年9月12日、加茂郡加治田村(現在同郡富加町)で、当地の郵便局長であった父木村理右衛門44歳、母きし35歳の二男として生まれました。本名は定次郎といいます。
幼少の頃は、諸方の寺々で遊び、また草花栽培、昆虫採集、釣魚等自然を友とする生活をしていたと、自らの半生を追想して執筆した『足跡』に述べていますが、このような生活が後の作品に大きく影響を与えたようです。
当時としては裕福な家庭に育った小舟は、東京から本をとり寄せ購読する一方、「東京には図書館というものがあって、学校へ入れぬ者は、其所へ通って勉強ができるという。又学生でも、学校の休暇には大概図書館へ行くようにしている」ということを耳にし、読破した本を貯め、いつかは図書館を建てようと考えるようになったのでした。
明治の出版状況
その頃の日本では、激しい勢いで西洋からの文化が流入していました。児童文学においては、井上勤訳『人肉質入裁判』(ヴェニスの商人)等どちらかと言えば大人向き翻訳本がほとんどでしたが、明治24年に巌谷小波著『こがね丸』が児童雑誌「少年文学」(博文館)の第1篇として出版されました。これが年齢にふさわしい読み物として多くの子ども達に支持されベストセラーとなり、それ以後児童向け読物の出現の要求に応えるべく多くの書き手が誕生します。
夢
小舟は、幼い頃からの夢として教員、昆虫研究、文学の3つを挙げていました。現代では考えられませんが尋常小学校卒業後、村長に直談判をし16歳から4年間地元で代用教員をしています。また無類の昆虫好きということで岐阜の名和昆虫研究所の助手も勤めました。
この間各雑誌に投稿を続け、17歳のとき、童話『胡蝶船旅行』(科学的お伽噺)をペンネーム木村扶桑の名前で投稿し、これが巌谷小波に認められ「少年世界」に掲載されます。この時の原稿料が5円(当時教員の給料は2円)であったことから原稿を書くことで収入が得られるということが分かり、それが文学の道を選ぶきっかけの一つとなったことが回顧で述べられています。
東京で活躍
その後、小波に招かれ博文館編集局に勤務することになり以後編集者として或いは児童文学の執筆者として活躍し、とくに歴史や科学読み物に多くの作品を残しました。
代表作『少年文学史』(童話春秋社)は編集者として或いは著作者としてこの時代を体験してきた小舟ならではの自信作であり、文部省から賞を授けられています
また仏像の研究でも知られ日本で最初の仏教美術書となる仏教美術五部作や『国宝全集』等を著し、その著作は文学・美術・自然科学関係と膨大なものとなっています。
図書館建設
小舟は、収集してきた本1万冊余を基に、大正2年岐阜通俗図書館を岐阜市神田町に創設しました。館長は小舟とし、実際の経営は当時教育新聞記者で後に岐阜日日新聞社編集長となった小木曽旭晃(修二)があたりました。
それまで岐阜には県教育会付属図書館(県図書館の前身)が明治42年に開館していましたが、小舟が描いた図書館は一般大衆向けのもので、『冒険小説 海賊大将』『幼年ポンチ』等誰でもが気軽に読める本を揃え、利用者の便宜を第一にと年中無休、午前8時から夜10時まで昼夜開館とした画期的な図書館でした。但し児童は一銭その他は二銭の閲覧料が設けられていました。
しかし、残念なことにこの図書館は大正8年隣家の火事による類焼という突然の悲劇的な終焉を迎えました。その後、事業の躓きもあり長く負債を抱えながらも図書館建設の思いは絶えることなく、岐阜市での再興を図りますがそれはかなわず、郷里の加治田村に通俗図書館を創りました。しかしそれも様々な変遷後蔵書も散逸し、現在では小舟自筆の毛筆原稿や巌谷小波の原稿等が富加町の郷土資料館に保存されているに過ぎません。
小舟は脳出血で倒れ昭和29年72歳で亡くなりましたが、明治期における児童文学への貢献は大きく、その鋭い観察力と類い希な記憶力によって綴られた『少年文学史』は黎明期の児童文学を研究する上で欠かせない基本資料となっています。
参考文献
- 『足跡 木村小舟君生誕五十年記念出版』(桐花会出版部、1930年)
- 『明治の少年記者 木村小舟と「少年世界」』(飯干陽著、あずさ書店、1992年)
- 『明治少年文学史 別冊』(大空社、1995年(復刻))
- 『木村小舟と岐阜通俗図書館』(飯干陽著、白百合女子大学研究紀要第25号、1989年)
- 『富加町史 下巻通史編』(富加町史編集委員会編、1980年)
- 『郷土歴史人物事典 岐阜』(吉岡勲編著、第一法規出版、1980年)
- 『県図書館史』-図書館法施行40周年に寄せて- 岐阜新聞連載(平成3年3月2日~同年9月26日))
- 『岐阜市史 通史編近代』(岐阜市、1981年)
いずれも岐阜県図書館蔵書
木村小舟著作
- 『少年文学史 明治篇 上・下・別巻』(昭和17年)
- 『家庭お伽 黄金王』(明治43年)
- 『歴史お伽噺 八幡太郎義家』(明治44年)
- 『少年講話歴史百譚』(明治44年)
- 『教訓お伽噺』(明治45年(複製))
- 『家庭教育唱歌お伽集』(大正6年)
- 『明治のお伽噺 上・下』(昭和19年)
- 仏教美術五部作『日本仏像物語』『日本国宝巡礼』『日本名画物語』『天平時代物語』『藤原時代物語』(1920~1922年) 他多数
いずれも岐阜県図書館蔵書