名前よみ

わだ まんきち

生没年

1865年-1934年(慶応元年-昭和9年)

解説

萬吉の生い立ち

大垣は昔から「文教の町」とか「博士の町」と言われ、すぐれた学者や文人を多く輩出しました。図書館界の大先達といわれた和田萬吉も大垣出身の人物で、明治から大正にかけて図書館界で活躍しました。
和田萬吉は慶応元年(1865)8月18日、大垣藩士和田為助の三男として東長町に生まれました。すぐ上の実兄は、後に東大総長になった理学博士の松井直吉です。この兄弟は、大垣出身の後輩たちの援助に労を惜しまず、郷土大垣に深い愛着を持ち続けました。
さて、萬吉は、幼少の頃は大垣の地で過ごし、地元の寺子屋に通っていました。しかし、長兄政弘が、東京で明治新政府の陸軍に奉職していたため、それを頼って上京しました。明治6年(1873)のことで、このとき萬吉は八歳でした。小学校は芝区の鞆小学校へ入学し、明治20年(1887)に第一高等中学校を卒業し、大学では国文学を学び、同23年(1890)に東京帝国大学文科大学国文科を卒業しました。

大学図書館での仕事と図書館学の教育

大学を卒業した萬吉は、すぐに東京帝国大学附属図書館へ奉職しました。奉職当時は、図書館蔵書の分類目録の作成を始め、各種目録の整備を積極的に行いました。3年後の明治26年(1893)11月には「管理心得」、同29年7月には帝国大学文科大学助教授に任ぜられると同時に、帝国大学図書館管理を命ぜられます。同30年6月には館長となりました。前任の図書館長田中稲城が、萬吉の人物手腕を高く評価し、「異常なる抜擢」を行なった結果です。萬吉は、若干32歳の若さで東京帝国大学附属図書館の館長ポストに就いたのです。萬吉は、この後、大学図書館の経営に手腕を発揮し、附属図書館が大学の中枢機関となる基礎を築きました。
萬吉は大正8年(1919)に文学博士の学位を受け、翌10年にわが国で最初の図書館学の講義を東京帝国大学で行いました。また、この年に、文部省が図書館員教習所を創設しますが、ここでも、目録法、図書館史、図書館学概論等の研究・講義を行い、講義の合間には図書館員としての資質や心得を熱心に語り、後進の育成に努めました。

図書館建設運動の先頭に立つ

和田萬吉の活動は、大学の図書館だけに止まることなく、日本の図書館界全体での活動へと広がっていきます。 今の日本図書館協会の前身にあたる日本文庫協会は、明治25年(1892)3月に結成されましたが、萬吉はその創立に参画し、協会の活動を積極的に進めます。同37年(1904)には会長の重任にもあたり、この在任中の同39年(1906)3月には、第1回全国図書館大会を開催しました。この全国大会は現在も続いており、今年(平成15年)は静岡県で第89回の大会が盛大に開催されました。
また、『図書館雑誌』の発行を提唱し、編集委員長として尽力した結果、丸善や徳川頼倫侯爵の支援を受けて、明治40年(1907)にその創刊を果たしました。『図書館雑誌』も全国大会と同様に現在なお日本図書館協会の機関誌として続いており、通巻960号を数えるまでになっています。 萬吉は『図書館雑誌』の生みの親ということができます。

さらに萬吉は、大正11年(1922)第17回全国図書館大会の席上で「図書館運動の第二期」という大方針を示しました。そして次の五つの目標を提示しました。それは、1、既に出来ている粗末な図書館の充実 2、図書館の普及 3、各種の専門図書館の建設 4、国立図書館の確立 5、学校図書館の発展向上 で、この提言は、大正デモクラシーという時代の流れの中で図書館発展の方途をまとめたものであり、その後の図書館運動に大きな影響を与えたと言われています。
この方針を掲げた翌年、関東大震災により東京帝国大学の附属図書館が焼失し、その責任を取って30年に及ぶ図書館長としての職を退きました。大学の貴重な蔵書を焼失したことは、図書館を愛し続けた萬吉にとって痛恨事でしたが、その輝かしい業績は賞賛され続けました。

趣味の人

萬吉は、文人や画人との交際も多く、自らも卍子、曼子と号し、戯画や風刺漫画を描き、謡曲を好み、狂言や講談を愛し、篆刻の趣味を持ち、また、旅行が好きで日本中隈なく歩き、豊かな人生を送りました。
萬吉は生涯をとおして郷土大垣を愛し、大垣出身在京青年の機関誌『麋城会誌(びじょうかいし)』が創刊されると、兄の松井直吉を助けてその刊行に力を尽くしました。そんな萬吉も、図書館界に大きな足跡を残して、昭和9年(1934)11月に70歳でこの世を去りました。

全国図書館大会(第87回岐阜大会)の開催風景写真
全国図書館大会(第87回岐阜大会)の開催風景
図書館雑誌創刊号表紙と萬吉の論説写真
図書館雑誌創刊号表紙と萬吉の論説

参考文献

いずれも岐阜県図書館蔵書

和田萬吉の著作

  • 『図書館小識』(共著、丸善、1915年)
  • 『図書館管理法大綱』(丙午出版社、1922年)
  • 『図書館史』(芸艸会、1936年)
  • 『図書館学大綱』(日本図書館協会、1984年)
  • 『謡曲物語』(冨山房、1912年)
  • 『馬琴日記』(丙午出版社、1924年) その他著作多数