虐げられっぱなしでありながら、人間の歴史をちゃんとささえてきた祖先の、涙ぐましいまでの底力を、読んで下さった方と一緒に反芻し続けたい。
(『かかみ野の風』あとがき)
作家解説
赤座憲久は昭和2(1927)年に岐阜県那加西市場(現 各務原市)に生まれた。
岐阜県師範学校在学中より短歌や詩を書き始め、師範学校卒業後、小学校の教員を務めながら本格的に文学の勉強を始めた。
昭和29(1954)年に岐阜盲学校の教員となるが、これは赤座が作家の道を歩む上での大きな転機となった。まず、盲学校での点字教育の実践を記録した『目の見えぬ子ら』を刊行し、毎日出版文化賞を受賞するなど大きな反響を呼んだ。そして昭和39(1964)年、盲目の少年を主人公にした小説「大杉の地蔵」で講談社児童文学新人賞を受賞し、児童文学作家としてデビュー。その後も代表作『雨のにおい星の声』をはじめ、目の見えない子の生活や心を描き続けた。
赤座文学を語る上でもうひとつ忘れてはならないのは、『砂の音はとうさんの声』に代表される、戦争体験を伝える作品群である。学徒勤労動員など自らの経験をもとに、戦争の悲惨さを次世代に語り継ぐ作品を多く生み出した。
また、川口半平、岸武雄らと岐阜児童文学研究会を立ち上げ、岐阜の児童文学の発展に力を注いだのも大きな功績である。
当展示で紹介したフレーズは、各務野の古代を描いた「かかみ野三部作」のあとがきの一節である。これは権力者に翻弄された古代の庶民について語られたものだが、目の見えない子や戦争にかり出された人々など弱い者をやさしい眼差しで描き、いのちの大切さを訴え続けた作家としての姿勢が表れている。
代表作一覧
1961年 | 目の見えぬ子ら(岩波書店) |
1965年 | 白ステッキの歌(講談社) |
1977年 | 青い山かげ(じゃこめてい出版) |
1978年 | 砂の音はとうさんの声(小峰書店) |
1979年 | 雪と泥沼(小峰書店) |
1987年 | 雨のにおい星の声(小峰書店) |
1988年・1989年・1993年 | 「かかみ野」三部作(小峰書店)(『かかみ野の土』『かかみ野の空』『かかみ野の風』) |
1993年 | あばれ天竜を恵みの流れに(PHP研究所) |
2001年 | たのむよ、盲導犬イエラ(新日本出版社) |
2004年 | 波照間からの旅立ち(小峰書店) |
年譜
年 | 年齢 | 生涯に関する事項 |
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昭和2年 (1927) | 3月21日、稲葉郡那加村(現 各務原市)に生まれる。 | |
昭和16年(1941) | 14歳 | 岐阜県師範学校に入学。 |
昭和18年(1943) | 16歳 | 北原白秋の「多磨短歌会」に入会。 |
昭和19年(1944) | 17歳 | 岐阜師範本科にすすむ。学徒勤労動員。 |
昭和21年(1946) | 19歳 | 岐阜師範学校に英語教師として着任した小島信夫と出会う。 |
昭和22年(1947) | 20歳 | 岐阜師範学校を卒業し、岐阜師範女子部附属加納小学校教諭に就く。以後、小学校教師として7年間勤務。 |
昭和29年(1954) | 27歳 | 岐阜県立岐阜盲学校教諭に就く。 |
昭和34年(1959) | 32歳 | 4月より内地留学で東京教育大学へ派遣され、この間、小島信夫と親交を深める。8月、長女留津が生まれる。 |
昭和36年(1961) | 34歳 | 12月、『目の見えぬ子ら』を岩波書店より刊行。 |
昭和37年(1962) | 35歳 | 『目の見えぬ子ら』で第16回毎日出版文化賞を受賞。2月、野村芳兵衛、川口半平、岸武雄らと岐阜児童文学研究会を立ち上げ。4月、斎藤史の「原型歌人会」発足に参加。 |
昭和39年(1964) | 37歳 | 「大杉の地蔵」で第5回講談社児童文学新人賞を受賞(翌年、『白ステッキの歌』と改題して刊行)。 |
昭和40年(1965) | 38歳 | 2月、『白ステッキの歌』を講談社より刊行。 |
昭和46年(1971) | 44歳 | 大垣女子短期大学助教授に就任(後に教授)。 |
昭和47年(1972) | 45歳 | 7月、児童文学雑誌「コボたち」創刊に参加。 |
昭和52年(1977) | 50歳 | 4月、『青い山かげ』をじゃこめてい出版より刊行。 |
昭和53年(1978) | 51歳 | 2月、『砂の音はとうさんの声』を小峰書店より刊行。 |
昭和55年(1980) | 53歳 | 『雪と泥沼』(小峰書店、1979年)で第13回新美南吉文学賞を受賞。 |
昭和59年(1984) | 57歳 | 第24回久留島武彦文化賞を受賞。 |
昭和60年(1985) | 58歳 | 10月、岐阜新聞で「かかみ野」三部作の初編となる「かかみ野の土」の連載を開始。 |
昭和62年(1987) | 60歳 | 12月、『雨のにおい星の声』を小峰書店より刊行。 |
昭和63年(1988) | 61歳 | 『雨のにおい星の声』で第35回サンケイ児童出版文化賞、第6回新美南吉児童文学賞、第11回絵本にっぽん賞を受賞。 |
平成元年(1989) | 62歳 | 『かかみ野の土』『かかみ野の空』(小峰書店)で第13回日本児童文芸家協会賞を受賞。 |
平成4年 (1992) | 65歳 | 4月、岐阜新聞の連載小説、「かかみ野」三部作(「かかみ野の土」「かかみ野の空」「かかみ野の風」)完結。(小峰書店より1988‐1993年刊行。) |
平成5年 (1993) | 66歳 | 6月、『あばれ天竜を恵みの流れに』をPHP研究所より刊行。 |
平成6年 (1994) | 67歳 | 『雨のにおい星の声』の英語版がアメリカで刊行。(『Smell of the rain,voices of the stars』Harcourt Brace)。 |
平成11年(1999) | 72歳 | 岐阜市から可児市に転居。 |
平成13年(2001) | 74歳 | 6月、『たのむよ、盲導犬イエラ』を新日本出版社より刊行。 |
平成16年(2004) | 77歳 | 4月、『波照間からの旅立ち』を小峰書店より刊行。 |
平成24年(2012) | 8月31日、逝去。享年85歳。 |